指先より先にふくらはぎを動かす理由
足先が冷たいと、多くの人はまず指先そのものを温めようとします。しかし血液を脚から心臓へ押し戻しているのは、指先ではなくふくらはぎの筋肉が収縮するポンプ作用です。座りっぱなし・立ちっぱなしでこのポンプが止まると、心臓から送られてきた血液が脚に滞りやすくなり、足先まで新しい血液が届きにくくなります。冷えを感じたら、指先を温める前にまずふくらはぎを動かすことが近道です。
実際に、座った姿勢で足首を大きく反らす運動を行うと、じっとしている時と比べて膝の裏を通る静脈の血流速度が大きく速まったとする研究報告があります(詳しくは後述の「科学的根拠」で紹介します)。以下の3つの体操は、この「ふくらはぎのポンプを動かす」ことを目的に、場面別に設計しています。
場面別3つの体操|対象筋肉・実数
座って・立って・寝る前の3つの場面に分けています。一度にすべて行う必要はなく、できる場面で1つずつ取り入れてください。
対象筋肉:前脛骨筋(すねの前)・下腿三頭筋(ふくらはぎ)
やり方:椅子に座ったままかかとを床につけ、つま先だけを天井に向けてゆっくり持ち上げる。次はつま先を床につけ、かかとを持ち上げてふくらはぎを縮める。この2動作を交互に繰り返す。
- キープ
- 各3秒
- 回数
- 10往復
- 頻度
- 1日3セット(デスクワークの合間に)
- 注意
- 反動をつけない。靴を脱いで行うとより動かしやすい
対象筋肉:腓腹筋・ヒラメ筋(ふくらはぎ)
やり方:壁やテーブルに手を添えて支えにし、足を肩幅に開く。2秒かけてゆっくりかかとを持ち上げ、2秒かけてゆっくり下ろす。つま先立ちの姿勢を保つ必要はなく、上げ下げを繰り返す。
- 動作
- 2秒で上げ・2秒で下ろす
- 回数
- 15回×2セット
- 頻度
- 1日2回
- 注意
- 必ず支えを使いバランスを崩さない。膝や足首に痛みが出たら中止する
対象:下腿の筋肉全体・足関節まわり
やり方:仰向けまたは座った姿勢で片足を軽く持ち上げ、足首を大きく円を描くようにゆっくり回す。内回し・外回しを両方行い、反対の足も同様に行う。
- 回数
- 片足10回ずつ×2セット(内回し・外回し各10回)
- 頻度
- 1日1回(就寝前)
- 注意
- 大きくゆっくり回す。勢いをつけない
体操・入浴 実数一覧表
| 体操名 | 対象 | 場面 | 動作・秒数 | 回数 | 頻度 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①足首の曲げ伸ばし | 前脛骨筋・下腿三頭筋 | デスクワーク中に | 各3秒キープ | 10往復 | 1日3セット |
| ②かかと上げ下げ | 腓腹筋・ヒラメ筋 | 立ち仕事の合間に | 2秒で上げ・2秒で下ろす | 15回×2セット | 1日2回 |
| ③足首回し | 下腿の筋肉全体 | 寝る前に | ゆっくり大きく回す | 片足10回×2セット | 1日1回 |
| ④入浴中のかかと上げ下げ | 腓腹筋・ヒラメ筋 | 入浴中に | 湯温40℃前後・10分以上浸かる | 10回 | 1日1回(入浴時) |
入浴中の実数|湯温・時間・体操
全身浴は指先だけでなくふくらはぎから上を丸ごと温められるため、①〜③の体操と相性のよい組み合わせです。湯温は40℃前後、湯船に浸かる時間は10分以上を目安にしてください。熱すぎる湯は長く浸かっていられず、のぼせの原因にもなります。
湯船の中では、②のかかと上げ下げを10回行うと、筋肉をゆるめながらポンプも動かせます。足の裏を浴槽の底につけたまま、かかとだけをゆっくり上げ下げしてください。のぼせを感じたらすぐに湯船から出て、無理に体操を続けないでください。入浴後は体が温かいうちに靴下を1枚はき、足先が冷える前に保温するとその日の体操の効果を保ちやすくなります。
やってはいけないこと・中止基準
- 反動をつけて勢いよく足首を動かさない:特に立って行うかかと上げ下げは、勢いをつけるとバランスを崩し捻挫の原因になります。必ず支えを使ってください。
- 膝や足首に痛みがある時に無理に回数をこなさない:痛みを我慢して続けると悪化することがあります。
- ふくらはぎが攣った(つった)状態のまま体操を続けない:攣りが治まってから再開してください。
- 立ちくらみ・強いめまいがある時に、繰り返し何度も行わない:起立性のめまいを誘発することがあります。
- 片脚だけ急に腫れている時に、腫れた脚をもんだり動かしたりしない:血管の病気が背景にある場合、悪化させるおそれがあります。
- 体操中に胸の痛み・強い息切れが出た
- 片脚だけの急な腫れ・熱感・強い痛みに気づいた
- 足首や膝に鋭い痛みが出た
- 2〜4週間続けても足先の冷えに変化がない
上記が出た場合は体操を中止し、症状が続く・強い場合は医療機関を受診してください。
当院での観察(一次情報)
科学的根拠
正直にお伝えすると、「ふくらはぎの体操を行うと足先の冷えの自覚が軽くなる」という点を直接調べた比較試験は見当たりませんでした。ここでご紹介するのは、体操によって脚の静脈血流(心臓へ戻る血液の流れ)がどう変わるかを調べた研究です。
Kroppら(2018年)は、健康な成人20名を座った姿勢にして、足首・つま先のさまざまな運動を行った際の膝窩静脈(膝の裏を通る静脈)の血流速度を超音波で測定しました。安静時の血流速度は5.6cm/秒でしたが、足首を反らしながらつま先を持ち上げる運動では193.6cm/秒、力を込めた底屈(つま先立ちのように足首を伸ばす動き)では154.5cm/秒、つま先だけを曲げる運動では118.8cm/秒まで速くなりました。著者は、いずれの運動も安静時と比べて静脈血流を大きく速めており、座りっぱなしによる血液のうっ滞を防ぐうえで意味があると結論づけています。
PubMed PMID: 28478746
Ercanら(2018年)は、慢性静脈不全のある患者27名(うち女性23名)に週3回・12週間のふくらはぎの運動プログラムを行いました(途中5名が脱落し、実際に前後比較の対象となったのは22名です)。足関節の可動域・筋力・痛み・生活の質・静脈が心臓へ戻るまでの時間(静脈還流時間)を運動の前後で比較した結果、筋力の向上とともに、静脈還流時間が統計的に有意に改善しました(p<0.05)。あわせて痛みの軽減、生活の質の改善も報告されています。著者は、ふくらはぎの筋力を鍛える運動療法が静脈のはたらきに良い影響を与えると結論づけています。なお、この研究は理学療法の専用機器(等速性運動機器)を使った指導付きプログラムで、本ページでご紹介している自宅でできる体操とは方法や強度が異なります。
PubMed PMID: 28954574
現在地は「ふくらはぎを動かすと脚の静脈血流は速くなる、という運動生理学的な裏付けはある」が「それによって足先の冷えの自覚がどの程度軽くなるかは、まだ直接調べられていない」という段階です。当院でも体操は、冷えを消す特効薬ではなく血液が滞りにくい状態を保つための土台としてご案内しています。